英語力が高くないと会議の主催者になるのは難しい、という記事をよく見かけます。でも現実には、英語が苦手なまま会議を仕切らなければならない人はいます。私もその一人でした。
グローバルチームで仕事を進めるためには、自分が会議を主催する場面が必然的に出てきます。英語力が完璧になるまで待っていたら、その間ずっと仕事が止まることになります。
それでも会議を開き、議論をまとめ、次のアクションを決めなければならない。その現実から目を背けた記事を読んでも、次の会議には使えません。
この記事では、TOEIC600点台のまま外資系PMとして10年間さまざまな会議を主催してきた私が、実際にやっていることを書きます。
会議の成否は、当日よりずっと前に決まる
英語力が低い人ほど、会議当日の対応より事前準備で差がつきます。そして準備は前日では遅い。
特に意思決定の会議では、当日はじめてスライドを見せても限られた時間で理解してもらうのはほぼ不可能です。承認者は一人ではなく、それぞれが背景を理解しているレベルも異なります。
その場ではじめて内容を聞いた人から頓珍漢な質問が飛んできたり、関係のない話題に時間を割いてしまったりする。それを避けるためにも、十分な事前準備とレビューが欠かせません。
私が大事な会議の前に行っているのは、主要なメンバーに事前にスライドの中身を説明し、フィードバックをもらった上で本番に臨むことです。承認者から答えにくい質問が来たとき、瞬時に回答できる体制を整えておきます。
事前に説明しておいた上司やメンバーが、肯定的な意見や相手に分かりやすい回答を返してくれる。それによって意思決定がスムーズに進みます。しかし、回答を丸投げするのではなく、あくまで主体は自分です。
外資系はドライでバサバサ決めるイメージがありますが、実際には事前の根回しが結構あります。根回しというより、自分の説明が十分にカバーされているかをオーディエンス側から見てどうか、どう改善すればもっと良くなるかについて意見をもらいます。
上司であれば、私のミーティングがスムーズに進むことを望んでいるし、会議で自信を持って回答できるように協力してくれます。完璧な英語でなくても、事前に合意が形成されていれば会議は動きやすくなります。
議論が脱線しても、最初と最後を握っておく
どれだけ準備しても、当日の議論が想定外の方向に流れることはあります。そのときに頼りになるのが、入り口と出口を自分が握っているという事実です。
開始直後にゴールを宣言しておけば、脱線しかけたときに「今日のゴールから離れています」と言える根拠になります。終了5分前に強引にまとめれば、誰が何をいつまでにやるかが確定します。中身の議論がどう動いても、この二点が決まっていれば会議は成立します。
入り口:開始直後にゴールを宣言する
The goal of this meeting is to decide A or B. We have 30 minutes. Let's keep the last 5 minutes for next steps.
出口:終了5分前に強引にまとめる
Okay, let's wrap up. We decided to go with Plan A.[Name], you will send the data by Friday. Correct?
異論が出たり脱線が多かったりして結論が出なかった場合でも、次のミーティングを設定し、それまでにどんな情報を追加で用意するかを決めれば十分です。
その日の会議で全部解決しなくても、前に進んでいるという事実が残れば、会議は成功しています。
重要なのは、自分がこの会議と仕事を責任をもって前に進めようとしているという姿勢を見せることです。多少うまくいかなくても、その姿勢は相手に伝わります。
議論が脱線したとき
ネイティブ同士の議論が始まると止めにくいと感じる人は多いと思います。ただ議論を止めるのに流暢な英語は必要ありません。
私がよく使っている言い方はこれです。
Thank you, [Name], for your comment. That's a very important discussion. However, we only have 30 minutes today, so I'd like to focus on the agenda.
相手の発言をまず感謝で受け取り、重要だと認めた上でアジェンダに戻せば、相手も受け入れやすく、自分が会議をコントロールしているという印象を与えられます。事前にアジェンダと会議のゴールを共有しておくことで、この一言に根拠が生まれます。
議論が早すぎてついていけないとき
ネイティブ同士が早口で話し始めたとき、無理に全部理解しようとしなくても大丈夫です。議論の内容より、議論の方向を管理することに集中します。
聞き取れなくなったら、止めます。
I'd like to clarify the point because I couldn't catch the meaning. So, your point is [自分の理解]. Is that correct?
「わかりません」と言うのではなく、自分の理解を言葉にして確認します。聞き取れなかったことを正直に伝えた上で、自分がどう理解したかを返すことで、会話が前に進みます。
的外れな回答を防ぐためにも、この一手間が重要です。
オンライン会議でのチャットと質問管理
オンライン会議では、質問や発言のタイミングを最初に決めておくと会議が進めやすくなります。冒頭で「質問があれば挙手ボタンを使ってください」と伝えておくか、適時表明してもらうよう促します。
時間管理が厳しい会議では、先に説明をすべて終わらせてから最後にまとめて質問を受ける形にすることもありますが、参加者の顔ぶれや会議の性質によって使い分けます。
チャットは口頭で伝えにくい情報を共有するときに使います。参照してほしいリンクやファイルをその場で貼り付ける。URLを口頭で読み上げるより確実で、参加者全員が同じ情報にアクセスできます。
一つ覚えておくと便利な略語があります。会議中に参加者がチャットに「brb」とコメントすることがあります。「be right back」の略で、トイレなど少し席を外すという意味です。そのうち「back」とコメントが来るので、気にせず会議を進めましょう。
上司を後ろに置く
重要な会議には上司を招待しておくとよい場合があり、事前にこう伝えます。
I set up a meeting with the team. It might be tough for me to facilitate, so I'd appreciate it if you could join and back me up.
上司がいることで助かる場面は二つあります。
一つは、自分の担当外で起きた問題を説明してもらうときです。他のプロジェクトの影響で開発リソースが不足し、予定通りにリリースできないといった状況は珍しくありません。
なぜそうなったのかを全体像から説明できるのは、現場ではなく全体を見ている上司です。その場で説明してもらうことで、参加者の納得が得られます。
もう一つは、超短期で仕事を依頼しなければならないときです。相手にもリソースの配分や優先度があります。そのときに上司がいれば、こちらのプロジェクトを優先してほしいという依頼をその場でできます。
現場担当者だけでは動かせない話が、上司の一言で動くことがあります。
これは頼ることではなく、リソースを使うことです。上司とのコミュニケーションが日頃からできていれば、必要だと判断したときに参加してもらえます。
英語は現場でしか鍛えられない
英語で会議を仕切ることは、一朝一夕にできるものではありません。うまくいかない経験を繰り返して、現場の感覚をつかんで、改善を重ねることで少しずつ動けるようになっていきます。
その環境に入るのが怖いからやらないでいても、問題が消えるわけではありません。文法を一人で学び続けても、会議を仕切る体力も瞬発力も筋肉もつきません。筋肉は実際に使わなければつかないのと同じです。
そして思ったより、失敗やうまくいかないことへの反応は温かいです。多くの外資系メンバーは英語の失敗に寛容です。彼らが嫌うのは間違いではなく、消極的な姿勢の方です。
この記事に書いた方法は、英語が流暢になるまでの一時的な代替手段ではありません。英語力が低くても会議を成立させ、仕事を前に進めることがPMの仕事です。怖くても、まずその会議に入ることです。
なぜ英語力より仕事の中身が評価を左右するのかは、[英語が苦手でも外資系で通用する人が持っているもの]に書いています。



