「お受験」と「IB教育」を経て、外資系PMの私がたどり着いた結論。娘にドリルではなくmicro:bitを渡した理由

Education Strategy
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私はこれまで、二人の娘の教育にあらゆる角度から向き合い、悩み続けてきました。

二人が通っていた(いる)IB(国際バカロレア)PYP認定校での日常。そして長女のときの壮絶な小学校受験。世界基準の探究型教育と、日本の幼少期からの忠実な詰め込みや正解を求める教育。

その両端を親として体験し、かつ自身の仕事としてグローバルビジネスの最前線で生存競争をしている私が、今、確信していることが一つあります。

それは、教育に「正解」を求めた瞬間から負けが始まるということです。

学校が教えてくれるのは過去の正解。しかし、私が日々直面しているビジネスの現場に一般的な正解はありません。必要なのは、泥臭い仮説検証と、ゼロから形を作る力です。

だから最近私は、娘に教科書や問題集を渡す代わりにmicro:bit(マイクロビット)という電子基板を渡しました。

これは、外資系PMである我が家の「生存戦略」の一部です。

そもそも、なぜ英語力よりも「生存戦略」が必要なのか? 私が外資系でたどり着いた「OSの書き換え」については、こちらで詳しく語っています。

デジタル・ネイティブという幻想

今の子供たちは小さい頃からデジタル世界に自然に触れるデジタル・ネイティブと呼ばれています。

確かに、娘たちはiPadを指先一つで操り、簡単に好きな動画を見つけ出します。しかし、私はそれに強い危機感を覚えています。

彼らはテクノロジーの使い手ではなく、ただの消費者だからです。

美しく磨き上げられた画面の向こう側で、誰かが作ったアルゴリズムの上で踊らされているだけ。かつて私たちがPCを自作し、コマンドラインに文字を打ち込み、試行錯誤しながら裏側を覗き込んだような体験は、そこにはありません。

どれだけ最新のタブレットを与えても、ブラックボックス化された製品を使っている限り、子供たちは一生作られた世界の住人のままです。

ガレージというカウンターカルチャー

スティーブ・ジョブズをはじめ、多くのイノベーターがガレージにルーツを持つ話は有名です。

彼らが強かったのは、学校で良い成績を取ったからではありません。近所の大人たちが趣味で機械や電子機器を操る環境に触れ、世界はブラックボックスではなく、自分で分解し、再構築できるという万能感を持っていたからでしょう。

都心のマンションにガレージはありません。だから私は、自宅のデスクを意図的に「Strategic Lab(実験室)」に変えました

モニターにはデータサイエンスをイメージするグラフを映し、デスクには分子構造モデルや顕微鏡、そしてmicro:bitやLittleBits、Raspberry Piなどの部品を転がしておく。あえて子供の視界に触れる場所に、好奇心の種を置いておくのです。

「パパ、これ何?」

そう娘が興味を持った瞬間が、教育のスタートラインです。

画面の外へ。なぜ「micro:bit」なのか

私が数ある教材の中で「micro:bit」を選んだ理由は明確です。

自分の手でいじり倒し、世界の基本である「物理法則」に触れられるからです。

画面の中で完結するプログラミングも悪くありませんが、それだけではゲームと変わりません。

micro:bitは違います。

  • 自分が書いたコードで、基板上のLEDが光る。
  • 本体を振る(加速度センサー)と、音が鳴る。
  • 部屋が暗くなる(光センサー)と、ライトがつく。

この自分のアイデアが、物理現象として現実になる感覚こそが、世の中の仕組みを理解する解像度を一気に高めます。

PM流・教育術:「自由にやれ」は横暴である

ここで重要なのが、親の関わり方です。

実は以前、私は失敗した経験があります。LittleBitsという子どもでもパズルのようにパーツをつないで電子部品を動かせるキットを購入しました。

「ほら、面白いものがあるよ」と言って、一通り基本的な原理やをやり方を説明した後、好きに遊んでごらんと娘に丸投げしたのです。

結果、 長女は5分で飽きて読書に戻ってしまいました。

当然です。「自由にやれ」というのは、部下に「自由に企画を出せ」と丸投げする上司と同じです。自由すぎる環境は、子供をフリーズさせます。

今回私は、製造業でよく使われるMVP(Minimum Viable Product)の概念を持ち込みました。MVPとは、完璧を目指さず実用最小限の製品をまず作ることを意味します。

micro:bitの基本を説明したあと、娘に作業のスコープ(範囲)を設定して伝えました。

「すごいものは作らなくていい。30分で、ハートマークが点滅するだけのプログラムを作ろう」

彼女は驚くほど速くやり方を吸収し、簡単に自分のプロダクトを完成させました。

正解のあるテストの高得点よりも、自分で何かを完成させ、改良したり、新しいものに作り替えたりする試行錯誤を繰り返す方が、AI時代を生き抜く上では遥かに価値があると考えています。

実は、かつては私も「正解」を求めるお受験沼にハマっていました。なぜそこから抜け出し、今のスタイルに行き着いたのか。その壮絶な失敗談はこちらに書いています。

親が子どもの「スーパーマン」になるのを辞めよう

「私にはエンジニアの知識がないから無理だ」

そう思う方もいるかもしれません。しかし、TED Talkでジョシュ・カウフマンが提唱している「20時間の法則」をご存知でしょうか。

プロになるにはかなりの時間がと経験が必要ですが、初心者を脱出し、楽しく扱えるレベルになるには20時間程度の学習で十分だという理論です。

親が最初から完璧である必要はありません。むしろ、親自身が説明書を読み、配線に悩み、失敗し、「あ!動いた!」と喜ぶ姿を見せることの方が重要です。

その試行錯誤する背中を見せることこそが、どんな高価な教室よりも優れた教育になります。

おわりに

偏差値や学校の成績を否定はしません。しかし、それだけでは消費者から抜け出せないのも事実です。

家庭を消費の場から創造の実験室(ラボ)へ転換しましょう。3,000円の基板と、親の少しの好奇心があれば、そこは現代のガレージになります。

今日から家庭を消費の場ではなくラボに変えませんか?